M&A・会社売却の基礎

M&Aとは

目次

M&Aとは

M&Aは、Mergers and Acquisitions(合併・買収)の略語です。企業が合併や買収を行うことを指し、M&Aは企業戦略の一つとして利用されます。

合併(merger)は、複数の企業が互いに合意した上で、全株式を統合して1つの企業として再編することを指します。一方、買収(acquisition)は、ある企業が別の企業の全株式を取得し、支配下に置くことを指します。

M&Aは、企業が市場での競争優位性を獲得し、成長戦略を実現するために利用されることがあります。また、市場の変化や不況などの経済的な状況に対応するためにも利用されます。しかし、M&Aはリスクが高い取引であるため、慎重な計画や専門家のアドバイスを求めることが必要です。

M&Aの目的

M&Aの主な目的は、以下のように挙げることができます。

事業拡大

自社の事業領域を拡大するために、他社を買収することで、新たな市場や製品、技術、顧客を獲得することができます。

コスト削減

買収企業との業務プロセスの統合や、重複している機能の削減などにより、コストを削減することができます。

シナジー効果の獲得

買収企業との統合により、シナジー効果を獲得することができます。例えば、商品開発やマーケティング、販売チャネルの統合などにより、効率化や競争力の向上を図ることができます。

技術革新

買収企業が持つ技術や知的財産権を獲得することで、自社の技術革新や製品開発の強化を図ることができます。

成長戦略の強化

競合他社や市場環境の変化に対応するため、成長戦略を強化するためにM&Aを実施することがあります。

競合他社の排除

市場での競合相手を排除するために、同業他社を買収することがあります。これにより、市場シェアを拡大し、競争優位性を獲得することができます。

新規事業参入

自社にはない新たな事業領域に参入するために、既存の企業を買収することがあります。これにより、新たな市場や顧客を獲得し、事業拡大を図ることができます。

経営再建

経営不振に陥った企業を買収し、経営再建を行うことで、事業を再生させることができます。

垂直統合

自社のサプライチェーンや顧客サービスを向上させるため、上流や下流の企業を買収することがあります。これにより、製品の品質や納期の改善、販売チャネルの拡大などが図られます。

以上のように、M&Aを実施する企業には、様々な目的や戦略が存在します。M&Aを実施することにより、企業が目指す成長や競争力の向上を図ることができます。

M&Aを実施する際には、これらの目的を明確にし、買収後のビジョンや計画を策定することが重要です。

M&Aのメリット

M&Aには、以下のようなメリットがあります。

成長の加速

M&Aにより、新しい市場や顧客、製品、技術を獲得することができます。これにより、企業の成長を加速することができます。例えば、自社製品に新しい機能を追加するために、製品開発力の高い企業を買収することで、自社製品の競争力を強化することができます。

シナジー効果の獲得

買収企業との統合により、業務プロセスの効率化や、製品開発や販売チャネルの共有により、シナジー効果を獲得することができます。例えば、生産拠点を統合することで、生産効率を向上させることができます。

経済的な利益

買収企業の資産や知的財産権を取得することで、企業の経済的な価値を向上させることができます。例えば、買収企業が持つ特許やブランド価値を取得することで、企業の競争力を強化することができます。

競争力の強化

買収により、市場シェアの拡大や、新たな技術や製品を獲得することで、企業の競争力を強化することができます。例えば、市場でのシェアを拡大するために、同業他社を買収することで、市場競争において有利になることができます。

リスク分散

複数の事業領域を持つことにより、リスクを分散することができます。例えば、特定の業界に依存しない多角化を図ることで、経済的なリスクを分散することができます。

企業価値の向上

M&Aにより、企業価値を向上させることができます。例えば、買収企業のブランド価値を取得することで、自社ブランドの価値を向上させることができます。

以上のように、M&Aを実施することで、企業に様々なメリットがあります。

M&Aの注意点・デメリット

文化統合の困難

M&Aによって異なる企業文化が統合されることになりますが、これが非常に困難である場合があります。異なる企業文化が衝突すると、業務プロセスや組織運営に影響を与え、結果として業績低下や従業員の離職などが生じる可能性があります。そのため、文化統合に向けた取り組みが重要です。

スタッフの不安定化

M&Aによって、従業員の離職や、スキル不足などが発生する可能性があります。これにより、生産性の低下や業務プロセスの混乱が生じる可能性があります。そのため、従業員の関与やサポートが必要です。

財務的負担

M&Aは多くの資金が必要であり、資金調達の手段には、借入や新株発行、自己資本の投入などがあります。これらの手段によって、企業の財務状況に悪影響を与える可能性があります。また、買収企業の価値が実際より低く評価される場合、負債の増加などが発生する可能性があります。

法的問題

M&Aには多くの法的問題が伴います。例えば、反トラスト法に反する可能性や、税務問題、契約の履行問題などがあります。これらの問題に対処するためには、専門家の支援が必要です。

競合他社の反発

競合他社や関連企業がM&Aに反発する可能性があります。M&Aによって企業の競争力が強化される場合、競合他社は市場シェアの低下を懸念し、M&Aに反対する可能性があります。また、M&Aによって企業が支配的な地位を占める場合、関連企業が不満を持つ可能性もあります。

以上が、M&Aの注意点やデメリットです。M&Aを実施する際には、これらのリスクを把握し、対策を考慮する必要があります。

M&Aの成功のために重要なこと

目的と戦略の明確化

M&Aを行う前に、明確な目的と戦略を定めることが重要です。これによって、M&Aを通じて何を達成するのか、どのようなシナジー効果を狙うのかを把握し、方向性を明確にすることができます。目的や戦略が明確であれば、M&Aによって企業価値が向上し、業務プロセスの効率化や競争力の強化などが実現できる可能性が高くなります。

適切な企業選定

M&Aにおいては、適切な企業を選定することが重要です。M&Aによって企業価値が向上するためには、買収する企業が自社のビジネスにマッチしている必要があります。また、買収する企業の財務状況や市場評価、競合状況などを詳しく調査し、リスクを最小限に抑える必要があります。

文化統合の重要性

M&Aによって異なる企業文化が統合されることになりますが、文化統合が成功しなければ、M&Aの成果が得られない可能性があります。文化統合には、従業員の意識改革やコミュニケーションの促進、共通のビジョンや価値観の確立などが重要です。

スムーズな統合計画の策定

M&Aによって複数の企業が統合されるため、スムーズな統合計画の策定が重要です。統合計画には、従業員の配置や業務プロセスの統合、ITシステムの統合などが含まれます。統合計画を適切に策定し、実行することで、業務プロセスの効率化や人材の最適化などが実現できます。

適切なコミュニケーション

M&Aによる統合には多くの関係者が関わるため、適切なコミュニケーションが重要です。特に、統合計画や文化統合などに関しては、従業員や株主、顧客、サプライヤーなど、多くのステークホルダーに影響を与えることがあります。適切なコミュニケーションを行い、ステークホルダーに対して十分な説明をすることで、不安や不満を解消し、統合プロセスを円滑に進めることができます。

適切なリーダーシップ

M&Aにおいては、適切なリーダーシップが必要です。統合計画の策定や文化統合の促進、従業員の意識改革など、多くの課題が発生するため、統合をリードする人材が必要です。また、リーダーシップによって、従業員のモチベーション向上やチームビルディングなども促進され、統合プロセスを効果的に進めることができます。

適切な投資と財務管理

M&Aには多額の投資が必要となります。投資と財務管理を適切に行い、経営資源を最適化することが重要です。また、M&Aによって財務状況が悪化する可能性もあるため、リスク管理に十分な注意を払う必要があります。

統合後のフォローアップと評価

M&A後には、統合プロセスのフォローアップと評価が重要です。統合後の課題や問題点を把握し、改善策を策定することで、統合後の成果を最大化することができます。また、定期的な評価によって、M&Aの成果を定量的に評価し、経営資源の最適化に役立てることができます。

タイムリーな統合

M&Aにおいては、タイムリーな統合が重要です。統合が遅れると、統合計画が煮詰まり、従業員のモチベーション低下や業績低迷につながる可能性があります。一方で、急ぎすぎて統合を行うと、十分な調査や準備ができていないため、問題が発生する可能性があります。適切なタイミングを見極め、統合計画を進めることが重要です。

インテグレーションプランの策定

M&Aにおいては、インテグレーションプランの策定が必要です。インテグレーションプランは、M&A後の統合プロセスを具体的に計画するもので、M&Aの成功には欠かせません。インテグレーションプランは、統合のスケジュールやプロジェクトマネジメント、従業員の文化統合などを含みます。

M&Aには多くの課題が存在しますが、上記のようなポイントを意識することで、M&Aの成功につなげることができます。

M&Aの流れ

M&Aの流れは以下のようになります。

M&Aの計画立案

M&Aを行うにあたり、企業の方針や目的を明確にし、戦略的な計画を立てます。M&Aの目的や手段、予算、時期、対象企業などを検討し、M&Aの適否を判断します。

対象企業の選定

M&Aの対象となる企業を選定します。対象企業の業界や市場、財務状況などを分析し、M&Aによって得られるメリットを検討します。

交渉

対象企業との交渉を行います。価格、株式の取得方法、経営陣の継続性などを協議し、契約書を締結します。また、M&Aに関する情報の開示や検証なども行います。

デューデリジェンス

対象企業の財務状況やビジネスモデル、法的リスクなどを詳細に調査し、M&Aのリスクを最小限に抑えるための情報収集を行います。

合意確認

契約書に基づき、対象企業との合意を確認します。取得する株式数や価格、経営陣の継続性などを確定し、M&Aの実施に向けて準備を進めます。

監督・認可

M&Aに必要な許認可手続きを行います。競争法などの法的制限がある場合は、それに従い、政府機関や規制当局からの認可を受けます。

実行・統合

M&Aを実行し、対象企業を自社の組織に統合します。従業員の配置や業務の再編、ITシステムの統合などを行い、M&Aの目的を達成するための統合プロセスを進めます。

成果の評価

M&Aの実行後、統合プロセスの評価を行います。M&Aによって得られたシナジー効果や財務効果などを評価し、計画通りに進められたかどうかを確認します。また、問題点があれば改善策を検討し、次のM&Aに活かすことも考えます。

M&Aは、上記の流れに沿って慎重に進められることで、M&Aの成功に繋がることが多いです。しかし、M&Aは複雑なプロセスを経るため、うまくいかない場合もあります。そのため、注意点やデメリットを把握し、十分な準備を行うことが重要です。

また、M&Aにおいては、財務だけでなく、文化や人事など非財務面の要素も重要です。M&Aが成功するには、組織文化や人的リソースを考慮した上で、統合計画を立てる必要があります。また、M&Aの影響を受けるステークホルダー、特に従業員や顧客への影響を最小限に抑えるよう配慮することも必要です。

M&Aの成功には、戦略的な視点やマーケットの動向、財務面の知識だけでなく、リーダーシップやコミュニケーション力、組織変革のスキルなどが必要です。M&Aを成功させるためには、多様なスキルを持つチームの構築や、M&Aのプロセスを理解するためのトレーニングが重要となります。

M&Aの手法・スキーム

以下にM&Aの主な手法やスキームについて説明します。

株式買収

株式買収は、ターゲット企業の株式を買い取り、完全子会社化することで、支配権を得る手法です。株式買収には、TOB(株式公開買い付け)やMBO(経営陣による買収)、LBO(負債を活用した買収)などの手法があります。

合併

合併は、2社以上の企業が合併して、新しい企業を設立する手法です。合併には、対等合併や上場企業と非上場企業の合併など、いくつかのパターンがあります。

アセット買収

アセット買収は、ターゲット企業の一部の資産(不動産、特許、ブランドなど)を買収する手法です。アセット買収には、ブランド買収や特許買収などがあります。

リースバック

リースバックは、自社が所有する不動産や機械設備などを、別の企業に売却して、同時にリースバック契約を締結することで、現金を手に入れる手法です。

スピンオフ

スピンオフは、親会社が持っていたある部門や事業を、別の企業として分割する手法です。スピンオフには、上場企業から分割して新規上場する「スピンオフIPO」や、新会社を設立して分割する「スピンオフMBO」などがあります。

以上がM&Aの主な手法やスキームです。企業は、自社の戦略や目的に合わせて、適切な手法を選択する必要があります。

M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)

M&Aにおいて、企業の価値評価は非常に重要な課題です。以下に、M&Aにおける企業価値評価について説明します。

企業価値評価とは

企業価値評価とは、ターゲット企業の価値を算出することで、M&Aの交渉において価格の決定に役立つものです。企業価値評価は、財務諸表や業界データ、マーケティング情報、将来の業績見通しなどを分析して行われます。

企業価値評価の方法

企業価値評価には、以下のような方法があります。

相対評価法

類似企業の株価や財務指標を比較することで、ターゲット企業の価値を評価する方法です。

割引キャッシュフロー法(DCF法)

将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて、企業価値を評価する方法です。

残余収益法

将来の収益から費用を差し引いた残余収益を求め、割り引いて企業価値を評価する方法です。

マーケットアプローチ

市場における同業他社の取引データを参考にして、企業価値を評価する方法です。

企業価値評価に影響を与える要因

  1. 企業価値評価には、以下のような要因が影響を与えます。
  • 市場環境:業界の競争状況や市場の成長率などが企業価値に影響を与えます。
  • 財務諸表:財務諸表の内容や業績などが、企業価値に影響を与えます。
  • 経営陣の評価:経営陣の能力や経営戦略が、企業価値に影響を与えます。
  • リスク:将来の業績見通しや市場の変化に対するリスクが、企業価値に影響を与えます。

以上が、M&Aにおける企業価値評価についての基本的な情報です。企業価値評価は、M&Aにおいて非常に重要な役割を担います。M&Aにおいて、買収価格は買収する企業の価値に基づいて決定されます。買収価格が高すぎたり低すぎたりすると、買収企業の利益や株主の利益に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、買収する企業の価値を正確に評価することが重要です。

M&A仲介会社やプラットフォームに支払う手数料・費用

M&A仲介会社に支払う手数料

M&A仲介会社は、M&Aのプロセスを支援するために、戦略的アドバイスや財務分析、企業価値の評価、交渉、デューデリジェンス、契約の準備などの業務を担当することがあります。このような業務を通じて、M&A仲介会社は、M&Aの成功に不可欠な役割を果たしています。

M&A仲介会社に支払われる手数料は、一般的に取引の総額に基づいて計算されます。手数料率は、取引の規模や複雑さ、地域などによって異なりますが、一般的には取引の総額の1〜5%程度となることが多いようです。ただし、取引の規模が非常に大きい場合、手数料率は低くなることがあります。

M&A仲介会社の手数料は、買い手側、売り手側、または両方の当事者が支払うことができます。手数料は、一般的には取引が完了した後に支払われますが、契約によっては取引が完了する前に支払われることがあります。

ただし、手数料は高額になるため、M&A仲介会社の選択には慎重になる必要があります。また、手数料に関する契約条件は、M&A仲介会社との契約を締結する前に詳細に検討される必要があります。

M&Aプラットフォームの利用料

M&Aプラットフォームは、オンライン上でM&A取引を促進するプラットフォームであり、買い手と売り手が取引を見つけたり、交渉を行ったり、情報を共有したりすることができます。これらのプラットフォームは、M&A取引をより効率的かつ効果的に進めることができるため、多くの企業が活用しています。

M&Aプラットフォームによって支払われる利用料は、一般的には、会員登録や広告、情報提供などの形式で支払われることが多いです。また、プラットフォームによっては、成功報酬や月額利用料など、さまざまな形式で利用料を設定している場合もあります。

成功報酬は、M&Aプラットフォームが取引を成立させた場合に支払われる報酬であり、取引総額の一定割合が報酬として支払われることが一般的です。一方、月額利用料は、M&Aプラットフォームの利用に対して毎月一定額を支払うものであり、通常は取引が成立しなくても支払われるため、利用目的や取引の進捗状況などを考慮して利用する必要があります。

利用料は、M&Aプラットフォームの提供するサービスや機能、利用する期間や頻度、業界や地域などによって異なります。また、M&Aプラットフォームを利用する際には、契約条件や利用料の明確化が必要であるため、利用前に詳細を確認することが重要です。

M&Aで発生する税務

譲渡側で検討すべき税務

M&Aにおいて譲渡側が検討すべき税金には以下のようなものがあります。

増益課税

M&Aによって譲渡益が発生する場合、その譲渡益に対して所得税が課されます。そのため、譲渡側はM&Aの前後における損益の計算を正確に行う必要があります。

法人税

法人は、会社を解散した場合や事業を売却した場合に、法人税が課される可能性があります。また、譲渡益が発生した場合には、その譲渡益に対しても法人税が課されます。

消費税

M&Aにおいては、譲渡された資産に対して消費税が課される可能性があります。譲渡資産が有形固定資産である場合には、固定資産税が課される可能性があるため、注意が必要です。

住民税・事業税

M&Aによって事業が譲渡された場合、住民税や事業税が課される可能性があります。また、M&Aによって事業を統合した場合、合併対象となる各社の事業税額を比較し、不公正な事業税額になっていないか確認する必要があります。

その他の税金

M&Aによって譲渡された資産に対しては、譲渡税や不動産取得税などのその他の税金が課される場合があります。また、M&Aによって生じた譲渡損失に対して、損金処理を行うことで税務上のメリットを得ることもできます。

M&Aにおいては、税金に関するリスクが存在するため、事前に専門家に相談することが重要です。また、譲渡側はM&Aによって生じる税務リスクを最小限に抑えるため、事前に税務の確認を行い、正確な計算を行う必要があります。

譲受側で検討すべき税務

M&Aにおいて譲受側が検討すべき税金としては、以下のようなものがあります。

法人税

M&Aにより譲渡された会社が法人税を未払いの場合、譲受側がその債務を引き継ぐことになります。また、譲渡された会社の利益が増加した場合、その分の法人税を支払う必要があります。

消費税

M&Aによって取得された資産に対して消費税がかかる場合があります。特に、不動産や建物の取得の場合、消費税がかかることが多いです。

源泉徴収税

譲渡された会社の従業員に支払われる給与に源泉徴収税がかかる場合、譲受側はその源泉徴収税を計算し、支払う必要があります。

相続税・贈与税

M&Aによって取得される場合、相続税や贈与税がかかることがあります。譲渡される資産の評価額に応じて税金が課せられるため、事前に評価額を算出する必要があります。

その他の税金

地方税や固定資産税など、様々な種類の税金が存在します。取引によって発生する税金を事前に確認し、対応策を考える必要があります。

これらの税金については、税務顧問や専門家に相談することが重要です。また、M&A契約の際には、税金に関する事項を明確に取り決めることも重要です。

第三者承継(M&A)の現状

M&A件数推移

日本におけるM&A件数の推移は、年度ごとに大きく変動していますが、近年は増加傾向にあります。

例えば、日本国内におけるM&A件数は、以下の通りです。

  • 2016年度:3,882件
  • 2017年度:3,789件
  • 2018年度:4,259件
  • 2019年度:4,092件
  • 2020年度:4,071件

ただし、2020年度には新型コロナウイルスの影響により、前年比で減少したというデータもあります。また、M&Aの規模に関しては、年度によってばらつきがありますが、大きな規模の案件も多く発生しています。

会社の引き継ぎ先推移

近年、日本では後継者不足により、会社の存続に関わる問題が深刻化しています。そのため、会社の引き継ぎ先として、次のような選択肢が考えられます。

従業員によるMBO(マネジメント・バイアウト)

自社の株式を従業員に売却することで、従業員が会社を引き継ぐ方法です。

子会社やグループ企業の統合

既存のグループ企業内で、会社を統合することで、引き継ぎ先を確保する方法です。

新規の投資家や企業への売却

外部の投資家や企業に、自社の株式を売却することで、会社を引き継がせる方法です。

これらの選択肢は、会社の状況や業界などによって異なりますが、従業員によるMBOやグループ企業の統合が、日本では一般的な方法とされています。

経営者のM&A認知状況

日本における経営者のM&A認知状況については、調査によって異なりますが、以下に一例を挙げます。

日本政策投資銀行が2021年に実施した調査によると、中小企業経営者のうちM&Aについて知識があると回答した割合は、前年比2.5ポイント増の26.7%でした。また、M&Aによる事業の成長や経営の改善については、前年比3.3ポイント増の67.7%が認識していました。

一方、トーマツが2020年に実施した調査によると、大企業の経営者にはM&Aに関する知識があるものの、中小企業の経営者には十分な知識がないと回答した割合が高い傾向にありました。

以上のように、経営者のM&Aに関する認知状況は企業の規模や調査内容によって異なりますが、近年は中小企業経営者でもM&Aに対する認知が高まりつつあるという傾向が見られます。

事業承継型M&A市場のポテンシャル

事業承継型M&Aとは、事業承継を目的として行われるM&Aのことであり、オーナー経営者の事業継承のために、事業を売却する際に利用されることが多い手法です。日本においては、高齢化が進み、中小企業の多くがオーナー経営者によって運営されているため、事業承継型M&A市場のポテンシャルは非常に高いとされています。

具体的には、事業承継型M&Aの市場規模は近年拡大傾向にあり、2019年には約2兆円となり、2025年には3兆円に達すると予測されています。また、事業承継型M&Aにおいては、オーナー経営者が後継者として事業を引き継ぐことが多く、事業の継続性や地域経済への貢献が期待されています。

ただし、事業承継型M&Aは、オーナー経営者の人的要因や相続税などの税制上の問題などが絡み合い、実現が難しい場合もあります。そのため、事業承継型M&Aにおいては、事前の相談や計画が重要であり、税理士やM&Aアドバイザーなどの専門家に相談することが推奨されています。

成長志向型M&A市場

成長志向型M&A市場とは、新規事業開発や事業拡大を目的として、自社とは異なる事業分野や技術分野における企業を買収するM&A市場を指します。主に、新規事業分野への進出や技術力の強化を目指す企業が参入し、M&Aにより成長戦略を実現することを目的としています。

この市場では、買収対象企業の成長性や技術力が重要なポイントとなります。また、買収後のシナジー効果を見込めるかどうかも重要な判断材料となります。買収後には、買収した企業との統合が必要となる場合もありますが、成長志向型M&A市場では、買収した企業のブランドや技術力を維持しつつ、新規事業分野や技術分野に参入することで、市場拡大を目指すケースが多いです。

例えば、自動車メーカーが自動運転技術を持つスタートアップ企業を買収する場合、自社開発よりも早期に市場投入が可能となり、市場拡大を促進できます。また、新規事業分野への参入を目指す場合も同様で、買収した企業のブランドや技術力を活用することで、市場拡大を目指します。

成長志向型M&A市場では、特定の業界や地域に限定されず、様々な事業分野や技術分野でM&Aが行われています。最近では、テクノロジー関連のスタートアップ企業や、新興国市場に注目が集まっており、活発なM&A市場が形成されています。

M&Aで譲渡する場合に重視すること

PwCが2019年に実施したアンケート調査によると、M&Aにおいて最も重視されるのは「文化・人材・組織の適合性」であり、その後「戦略的な合致」、「成長性・市場拡大の見込み」、「事業・業界知識」、「財務・税務面の合意」の順でした。

また、Deloitteが2020年に実施したアンケート調査では、「文化・人材・組織の適合性」、「成長性・市場拡大の見込み」、「財務・税務面の合意」、「事業・業界知識」、「顧客・取引先関係の保持」の順で、M&Aにおいて最も重要な要素とされていました。

ただし、M&Aにおいて最も重視する要素は、企業の業種や業態、M&Aの目的、交渉相手などによって異なる場合があります。

M&Aに関する経営者の相談相手

M&Aに関する経営者の相談相手は、以下のようなものがあります。

M&Aアドバイザー

M&Aに関する専門的な知識や経験を持ち、交渉や評価、契約などをサポートするプロフェッショナルです。経験豊富なアドバイザーを選ぶことで、M&Aプロセスのスムーズな進行や最適な条件での取引が可能となります。

弁護士

M&A契約の法的側面を担当し、契約書の作成や交渉、法的問題の解決などをサポートします。また、税務や知的財産などの専門的なアドバイスも行います。

会計士

財務面や会計面の専門家であり、企業評価や財務分析、税務対策などをサポートします。M&Aにおいては、特に企業評価に関するアドバイスが重要となります。

バンカー

金融機関の担当者であり、M&Aに必要な資金調達や財務面のアドバイスを行います。また、バンカーは自社の顧客や取引先などの情報を持っているため、M&Aにおいて重要なネットワークを持っている場合があります。

経営者仲間

M&A経験豊富な経営者や、同じ業種の経営者との情報交換やアドバイスを得ることができます。M&Aは企業の未来に大きく関わるため、信頼できる経営者仲間からのアドバイスや支援は大きな助けとなります。

コンサルタント

M&Aに関する戦略的なアドバイスや、M&A以外の経営課題についての改善策を提案します。また、M&Aにおける業界動向や市場トレンドなどの情報提供も行います。

M&Aに関する相談相手は、企業の事情や目的に応じて選択することが重要です。M&Aのプロセスには多くの専門的な知識や経験が必要となるため、相談相手の選択はM&Aの成功に大きく影響することになります。

M&A実施企業の労働生産性

M&A実施企業の労働生産性に関する研究結果は、一定のばらつきがあるものの、一般的には以下のような傾向が示されています。

  • M&A実施前の生産性が高い企業ほど、M&A後にも生産性が高く維持される傾向がある。
  • M&A実施前に低い生産性を持っていた企業がM&Aを実施すると、生産性の向上が見られることがある。
  • M&A実施後に生産性が向上するケースもあるが、逆に生産性が低下するケースもある。

これらの研究結果から、M&A実施企業の労働生産性については、M&A前の状況やM&Aの実施方法によって異なることが示されています。M&Aを実施する企業は、M&Aの目的や戦略に応じて、M&A後の生産性向上を図ることが重要です。

M&A実施企業の業績推移

M&A実施企業の業績推移は、様々な要因によって異なります。M&Aは、成功によって企業価値を高めることができますが、失敗によっては企業価値が低下することもあります。

一般的に、M&A実施企業の業績推移は以下のような傾向があります。

統合によるシナジー効果による業績向上

M&Aによって、経営資源の共有や合理化により、コスト削減や新たなビジネスチャンスの創出などのシナジー効果が生まれることがあります。このような効果により、業績が向上する場合があります。

M&Aによるリスク

M&Aは、投資先の企業が期待したほどの成果を生み出せない場合があります。また、統合がうまく進まず、リスクを抱えたまま経営が続けられる場合があります。このような場合、業績は悪化する可能性があります。

業界のトレンド

業界全体の市況や競合状況、技術革新などによって、M&A実施企業の業績に影響を与えることがあります。業界のトレンドに対応できない場合、業績が低下する可能性があります。

経営陣の能力

M&Aは、経営陣の能力が重要な役割を果たします。M&Aの計画、実行、統合の能力が高い経営陣であれば、成功する可能性が高くなります。一方、能力が低い経営陣であれば、失敗する可能性が高くなります。

以上のような要因によって、M&A実施企業の業績推移は異なります。M&A実施企業は、M&A実施前に十分なデューデリジェンスやリスクマネジメントを行い、成功するための準備をすることが重要です。

M&A実施企業の満足度

M&A実施企業の満足度については、実施後の経営成果や効果によって異なりますが、総じて高いとされています。

M&A実施企業は、市場や顧客の拡大、業界トップへのランクアップ、技術・人材の獲得などの利益を得られる可能性があります。また、合併・買収によって生じる経営効率化やリスク分散、規模の拡大によるコスト削減、キャッシュフローの改善など、様々なメリットも期待できます。

ただし、M&Aには高いリスクも伴います。例えば、M&Aによって得られるシナジー効果や利益が想定よりも低かった場合、経営統合に失敗したり、合併・買収先の企業文化や価値観の不一致などによって、経営陣や従業員の離脱、顧客や取引先の離反などが起こることもあります。

したがって、M&Aを実施する場合は、慎重な計画と十分なデューデリジェンスが必要であり、統合後のビジョンや戦略を明確にすることが重要です。さらに、従業員や顧客、取引先などのステークホルダーとのコミュニケーションも欠かせません。これらの要素がしっかりと準備され、実行された場合には、M&A実施企業の満足度は高いと考えられます。

M&Aの歴史と将来展望

M&Aの歴史は古く、19世紀にはアメリカで企業間の合併や買収が行われていましたが、第二次世界大戦後になって本格的に広まりました。現在では、グローバル化が進み、国境を越えたM&Aも増加しています。

M&Aの将来展望については、以下のようなものが考えられます。

  1. グローバルM&Aがさらに活発化する
    現在はグローバル化が進み、企業の国境を越えたM&Aが増加しています。今後も、海外市場への進出や競争力強化のためにグローバルM&Aが活発化すると考えられます。
  2. テクノロジーを活用したM&Aが増加する
    AIやIoT、ブロックチェーンなどのテクノロジーの進化により、業界や地域を超えた新しいビジネスモデルが生まれ、M&A市場も変化しています。今後は、これらのテクノロジーを活用したM&Aが増加すると予想されます。
  3. ESG投資の拡大により、ESGに配慮したM&Aが増える
    ESG(環境、社会、ガバナンス)投資が注目される中、企業の社会的責任や環境への配慮が求められるようになっています。今後は、ESGに配慮したM&Aが増えると予想されます。
  4. MBOやM&Aに代わる新しいビジネスモデルが生まれる
    M&Aが成熟する中で、新しいビジネスモデルが生まれることが期待されます。例えば、従業員が企業を買収するMBO(マネジメント・バイアウト)や、複数の企業が出資して新しいビジネスを生み出すコーポレート・ベンチャーなどが挙げられます。

以上のように、M&A市場は常に変化しており、今後も新しいビジネスモデルやテクノロジーの進化により、新しい展開が生まれていくことが予想されます。

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